リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第45号投稿記事(2026年3月)  山田 理絵 先生

私と漢方との出会い

山田 理絵

富山大学術研究部医学系成人看護学 准教授

 私が漢方医学という奥深い世界に初めて触れたのは,富山医科薬科大学(現在の富山大学)の看護学科で学んでいた学生時代に遡ります。当時の教育カリキュラムは,各種の検査データに基づいて病因を客観的に特定し,臓器という局所に対してアプローチする西洋医学が中心でした。西洋医学がもたらす科学的な治療効果の高さは日々実感していましたが,反面で一つの疑問も抱いていました。それは,本来「全人的」な存在であるはずの人間を,まるで臓器の集合体のように分割して診察や治療を進めていくことへの,看護学生としての率直な違和感でした。
 そんな折,私の視野を大きく広げてくれたのが,当時の和漢診療学講座・寺澤捷年教授の講義でした。そこで私は,人間が本来備えている自然治癒力を引き出し,高めていくという漢方の哲学に出会いました。特に「心身一如」―心と身体は不可分であり,一つの連続した全体として捉えるーという考え方は,非常に新鮮でありながら深く腑に落ちるものでした。対象者の全体像を把握し,身体的苦痛と精神的背景を切り離さずにケアを実践するという看護学の本質と,漢方医学の理念は極めて高い親和性を持っていたのです。この講義をきっかけに,私は漢方医学の持つ包括的な人間理解に強く惹きつけられました。

 この「心身一如」という視点は,学生時代の興味にとどまらず,その後の私の研究にも大きな影響を与えています。現在,私が取り組んでいるのは,漢方専門医が長年培ってきた経験知を定量化・言語化し,学生に教育可能な「形式知」へと変換する試みです。これまで,漢方専門医個々人の熟練技能として継承されてきた卓越した望診スキルを,客観的指標である眼球運動を基に解析することで,その暗黙のプロセスを科学的に明らかにすることができました。このエビデンスに基づく知見を看護学教育に還元することで,看護学生が患者を望診して必要な情報を収集しながら,患者に安心感を与える視線行動を学習し,臨床現場での心身一如に基づく看護実践に繋がると考えます。今後も,看護のアートと科学を両立させた漢方看護学の構築を目指し,取り組んでいきたいと考えています。